乞食blog -4ページ目

キンさん

キンさんのハウスに行った。
天井に画伯の書いたモンローが笑っているだけで、
中を覗くとキレイに荷物が無い。あぁ。

きっとキンさんもカズ姉も、
もう戻っては来ないだろうが、
決して私が悪い訳ではない。
山ちゃんが勝手に誤解して、
変な噂を広めただけだ。

振り向くとクチャクチャと口を動かしながら、
ナベさんが立っていたが、何も言えなかった。
考えすぎるとダメになりそうだ。

山さんとおにぎり

山ちゃんに話をしてもラチがあかないので、
山さんに相談。
キンさんとカズ姉の事、山ちゃんとの確執、
あと自分が皆から仲間外れにされているという事。

「考えすぎだよ。それに皆、冬になってから
ここを抜け出す事を一番に考えてるから、
他人に構ってる暇なんかないんじゃないか」

と、だけ言っておにぎりを一個くれた。
そういう事じゃないんだよ、と
少しつっかかってみるが、

「お前さんは何かやってるのか?
なんでもビッグイシューの誘いを断って
宝くじを買ったそうじゃないか。
アレだからオレも人の事は言えないけどさ、
足を引っ張るような事はやめようよ」

山さんまで…そういう事じゃないんだよ!
山さんにも少しがっかりだ。
とりあえずキンさんを探して誤解を解かないと、
モヤモヤして何も始まらない気がする。

売り言葉に買い言葉

空き缶集めから帰ってきた山ちゃんに
キンさんが見当たらない事、
そして昨日の話は誤解だから方々に言ってくれるな、
という話をするが、相変わらずの冷たい態度で、
わかったわかった、と軽くあしらわれてしまった。

さすがにカチンときて、
そっちがいつまでもそういう態度なら、
こっちにも考えがあるぞ、と
特に考えがある訳ではなかったのに
売り言葉に買い言葉で、つい口走ってしまった。

しまった、と思ったが
上手く舌が回っていなかったのか、
山ちゃんにはあまりはっきりと
伝わっていなかったらしい。

とりあえずホっとしたが、
物事は何にも解決していない。
この孤立状態をなんとかしなければ。

キンさんもいない

誤解を解こうと一晩かけて
キンさんを探し回ったのだが、
どこにもいない。

これ以上妙な噂を広められたくない。
山ちゃんのヤツ、勝手に誤解しやがって。
ちくしょう。

カズ姉が

山ちゃんからひどい疑いをかけられている。
女のケースワーカーとグルになって、
カズ姉の施設入りを推進しているというのだ。

今朝、昨日の態度を注意してやろうと、話し掛けたら
ふたりの問題は、ふたりの問題だからほっておけばいいのに、
やたら首を突っ込むのは、ふたりの仲を嫉妬しているからだろう。
みっとないから、足をひっぱるようなマネするのヤメロ!
など…けっこうきつい調子でいわれた。

それは誤解だ。
確かにカズ姉に「どう思うか?」と聞かれたので
「そんなことをわざわざ人に聞くということは、
気持ちがゆらいでいるんじゃないの?」と軽口を叩いただけだ。

カズ姉は、その先に続く
「最初の気持ちがたぶん本当の気持ちなんだから、
それを大切にしたほうがいいよ。
後になってから出てくる気持ちって、
だいたい本心をカモフラージュのためにムリしてる考えのことが多いよ」
という本題を吹っ飛ばしてしまったのか。

それを丁寧に山ちゃんに弁明すると、
山ちゃんはもっと怒ってしまった。
「だから、それがあのケースワーカーの女と同じいいぐさなんだよ!
おめえにも同じこと言われたからって!
なんでおまえは、あんな女とグルになってんの?」

…偶然だ。

すっかり最初の気持ちというものにさかのぼってしまったカズ姉は、
「もともとわたしは、こういう男についていくのは
ムリだろうと思ったんだよねえ」
といって、施設行きの検討を始めているらしい。

今日は見学だけ、と出て行ったが、
もしかするとそのままもうここには戻ってこないかもしれない。

キンさんが、荷物が何も残ってないんだよう…
とがっくりしているという。
まさか…絶句すると、山ちゃんがやりきれないようにいった。

「なんで女って、こういうヘんな理屈にコロッと
自分の気持ちをはめこむんだろうな。
そんな最初の気持ちより、長くふたりでやってきたことが、
ふたりにとって大事に決まっているのによ。
ちょっとうまくいかないと、
うまくいかない理由を人の言ったせりふから、
自分の都合のいいようにあてはめるんだ」

最近うまくいっていなかったのか。
自分は、キンさんとカズ姉がずっと一緒に
いられるように思っていただけだったのに。

このところ記憶がとぎれるので、
自分でもわからないうちにあれこれ余計なことをしゃべったり、
しでかしているのかもとも思い怖くなる。