乞食blog -3ページ目

アクマと二人きり

今朝、またアクマが来た。
昨日と同じまんじゅうを持って、
ニヤニヤしながら近づいてくるのだ。

相変わらず怖い顔だな、と思いつつ
差し出されたまんじゅうを受け取り、
ありがたく頂く。
その後は、特に何をしゃべる訳でもなく、
ニヤニヤしながら隣にいるので、どうも気まずい。

何と無く会話を振ってみても
一言二言で終わってしまい、
何がしたいのかサッパリ解らない。

仕方が無いので街の方でも行ってみるか、
と二人連れ立って公園を出る時、
ちょうどノリさんに見られてしまった。
また変な誤解をされなければいいんだけど。

アクマのまんじゅう

大きな怒鳴り声で目が覚めた。
とうとう行政による撤去が始まったのか?
と、毛布に包まったまま、恐る恐るハウスから
顔をだすとアクマが棒きれを振り回して、
何かを叫びながら青いポリバケツを殴りつけていた。

完全に狂ったキチガイの形相だ。
話し掛ける事もできず、しばらく呆然と眺めていると、
私に気付いたのか、ニヤリと笑ってこちらに近づいてくる。
急な展開に、蛇に睨まれた蛙のように完全に固まってしまった。

寝起きで何が何だか解らないし、
アクマは笑いながらどんどん近づいてくる。
ハウスの目の前まで近づき、
「やられる」と思い、目を閉じた瞬間

「ゴキブリがいたんだよ。キライなんだよね。オレ。」

と、アクマがボソっとつぶやいたのだ。
しかもズーズー弁というか、北の方の訛りが強い。
あまりの事にあっけに取られ、体から力が抜ける。
ゴキブリ?確かに気味の良いモノではないが、
ゴミ箱を漁っていればしょっちゅう見る虫だろう。
拍子抜けだ。そんな私などお構い無しの様子で

「昔からダメなんだって。驚かせて悪いね。」

と、ポケットからまんじゅうを取り出し、
こちらにポンと放り投げ背を向けてまたどこかへ歩いていく。
ハっとして、「おい!ありがとう!」と声をかけると
振り向きもせず右手を軽く上げ、
フラフラと歩いて行ってしまった。

食べ物に釣られたわけじゃないが、
今まで誤解していたのかもしれない。
唯一の理解者、センさんもいなくなったせいか、
どことなく寂しそうな後姿が少し気になった。
浮いている者同士、少し話でもしてみようか。

シゲさん帰郷、センさん逮捕

誰かと話したくなったので午後から河川敷へ。
シゲさんは留守だったが、小銭拾いの名人のヒロさんがいた。
しばらくぶりだね、としばし話し込む。

最近シゲさんを見ないけど?と尋ねると、
何でも新潟へ戻ったそうだ。
特に職が見つかったとか、
家族から連絡があったという訳ではないらしい。
ボランティアを手伝うとか
何とか言っていたらしいが、
故郷とはいえ冬の厳しい最中に新潟か。
シゲさんよくやるなあ、と思う。

あと驚いたのが、センさんの事だ。
万引きの現行犯で逮捕されたらしいのだ。
何でもエロDVDを万引きしてブザーが鳴り、
あっという間に御用になったらしい。

いつだったか、CDの束のようなものを見せてくれて、
「こん中にエロいのがイッパイ詰まってんだぜ!
どうやって見るか良くわかんねぇけどヨ、
屋根付きの身分になったら思う存分見てぇよなぁ~」

と、センさんらしい夢を語っていた。
そんな見られないようなCDを盗んで警察沙汰なんて、
本当にバカだなぁと思ったが、ヒロさんに

「上手い事やったよなぁ。
普通は万引きくらいじゃ引っ張られないんだけど。
これでセンさん、今年の冬は屋根付き飯付きだぜ。
正月にはモチも食えるし。羨ましいよ」

と言われ、人としてそこまで落ちてはいけない、と思う反面、
寒い冬をぬくぬくと乗り切れる
センさんを少し羨ましくも思った。

そんな話をして、夕方頃別れたが、
結局、公園で今起こっている事や、
私が浮いている事はつい隠してしまった。

取り残されてる

昼過ぎに目を覚ましたが、
知った顔が見当たらない。
とりあえず顔を洗って用を足すと、
もうやる事がないので、
またハウスに戻ってしまう。

お腹がすいていたので、パンの耳を水で流し込んだら
また毛布にくるまって横になる。
ふとあの自動販売機を思い出したので、
重い体を引きずって見に行くが収穫無し。

キンさんはどこに行ったんだろう。
ヨシさんは上手くやってるのかな。
ノリさんはビッグイシューか。
取り残されてるなぁ。

面倒臭い

何もかもが面倒臭くなってきた。
とにかく前向きに考えようと思う。

人間関係はどこにいてもつきまとうものだ。
そもそも私が職を失ったのも、
当時の同僚とのちょっとした行き違いからきた
揉め事があったせいでもあるし、
元々そんなに付き合いが上手いほうではないから、
昔からよく誤解されていたような気がする。

マイナス思考しかできない自分にうんざりしてきた。
いっそ今すぐいなくなってしまいたい。
色んな人間の顔が浮かんできた。
何事にも引き際というものがある。
とりあえずもう一眠りする事にした。