アクマのまんじゅう | 乞食blog

アクマのまんじゅう

大きな怒鳴り声で目が覚めた。
とうとう行政による撤去が始まったのか?
と、毛布に包まったまま、恐る恐るハウスから
顔をだすとアクマが棒きれを振り回して、
何かを叫びながら青いポリバケツを殴りつけていた。

完全に狂ったキチガイの形相だ。
話し掛ける事もできず、しばらく呆然と眺めていると、
私に気付いたのか、ニヤリと笑ってこちらに近づいてくる。
急な展開に、蛇に睨まれた蛙のように完全に固まってしまった。

寝起きで何が何だか解らないし、
アクマは笑いながらどんどん近づいてくる。
ハウスの目の前まで近づき、
「やられる」と思い、目を閉じた瞬間

「ゴキブリがいたんだよ。キライなんだよね。オレ。」

と、アクマがボソっとつぶやいたのだ。
しかもズーズー弁というか、北の方の訛りが強い。
あまりの事にあっけに取られ、体から力が抜ける。
ゴキブリ?確かに気味の良いモノではないが、
ゴミ箱を漁っていればしょっちゅう見る虫だろう。
拍子抜けだ。そんな私などお構い無しの様子で

「昔からダメなんだって。驚かせて悪いね。」

と、ポケットからまんじゅうを取り出し、
こちらにポンと放り投げ背を向けてまたどこかへ歩いていく。
ハっとして、「おい!ありがとう!」と声をかけると
振り向きもせず右手を軽く上げ、
フラフラと歩いて行ってしまった。

食べ物に釣られたわけじゃないが、
今まで誤解していたのかもしれない。
唯一の理解者、センさんもいなくなったせいか、
どことなく寂しそうな後姿が少し気になった。
浮いている者同士、少し話でもしてみようか。