乞食blog -24ページ目

ゲンさんとVTR・前編

ノボル君がビデオを持って撮影にやってきた。
何でも映画監督を目指しているとか言う話で、
前からちょくちょく撮らせてくれと言っては
ビデオ片手に公園に訪れる。

最初は皆も警戒し、適当にあしらっていたが
生来のひょうきん者であるゲンさんだけは、
ビデオを向けられるのがよほど嬉しいのか、
ひょうきんなポーズや、得意のダジャレを
積極的に披露していた。

そのうちゲンさん目当てに自然と皆が集まるようになり、
ノボル君も徐々に皆に受け入れられていった。

今回持ってきたビデオカメラはリース?とやらでどこかから
借りているものらしく、返却期限が明日だという。

「今、バイトをしてお金を貯めてるんで、
すぐに新しいカメラを持ってまた撮影に来ますよ。
一応、今日で撮影をいったん中断してしまうことになりますが、
ゲンさん、いつもの、またよろしくお願いしますね!」

とノボル君。ゲンさんも
「おう!そのカメラ、明日返しちゃったらダメら」
などとダジャレをさっそく飛ばしはじめた。
しかし、今日は少しだけいつもと違っていた。

ベースボール

カズ姉のラジオを囲んで皆が騒いでいる。
「にーしてつ!にーしてつ!」
と珍しくのりさんの声が高い。
古くからのライオンズファンなのだろう。

「日ハムが勝ったらハム食えるかな?」
トンチンカンなヤマちゃんの言葉に
「カンケーねーって!」
と、調子よくキンさんが返す。
皆が一斉に笑う。

今年ももうすぐプロ野球が終わる。
もうそんな季節か、と口に出しかけてふと、
外で暮らしているのに
プロ野球で季節を感じるってのも
妙な話だな、と思った。

もうすぐ日本シリーズ、落合監督には
頑張って欲しい。

Radio2

「カズエの機嫌がわるくってよぉ。
あのババアがヨー!ふだけんなっての!」

朝から泥酔したキンさんが、
こんな愚痴を言いながらテントにやってきた。
理由はわかってる。

以前からカズ姉はヨッさんのラジオをうらやましがっており、
同居するキンさんに「買って欲しい」とねだっているのだ。

キンさんにラジオを買う余裕はないって分かっているはずなのに。
カズ姉も甘えてみたいのだろう。

「バッカヤロウ。いらねぇもんはいらねぇって言ってるのがあいつにはわからねえ!」
と言いながらテントから出ていったキンさん。
そのままその晩は帰ってこなかった。

2日後、どこかの会社名が印刷されたAMラジオを持って
キンさんが帰ってきた。
聞くと、埼玉の方にある産業廃棄物ゴミ処理場まで歩いていき、
ラジオを見つけて持って帰ってきたのだという。

「うちのヤツもバカだからさぁ。
電池をちっちゃいの買ってきちゃってんのさあ。
うちのヤツもバカだからさぁ。
あたしさぁ、今日、誕生日だったのさぁ。
なーんもいらないって言ってたんだけどさぁ。あのバカがさぁ」

そのラジオを持って、
嬉しそうにテントを回るカズ姉の笑顔を
一生、忘れることはないだろう。

Radio

ヨッさんのラジオが突然鳴らなくなった。
電池が切れたのだろうか。
振ったり叩いたりしたが、だめだった。
みんなはヨッさんに電池を買いに行けと言ったが、

ヨッさんは黙って首を振り、また寝てしまった。
ヨッさんのテントの横、
放置されたラジオが雨でびしょびしょになっていた。

ハードレイン

夜半ひどい雨のため、屋根のある場所に少し移動した。
移動先に乾いたダンボールがそれなりにあり助かった。

金が少しある人間は、簡易宿泊所に移動したようだ。
自分は残金を見て、断念。

こういうとき集団では移動しない。
移動先とトラブルになるからだ。
バラバラになって静かにしていれば、黙って受け入れてもらえる。

ひどく冷える。
食べ物を探しにもいけない。
ただ丸まって眠るのみ。

話しによると、かなりの大型台風接近中とのこと。
このまま台風に流されとばされ、死んでしまうのもいいなあと思う。

疲れた。